映画『永い言い訳』レビュー

優しき残酷。

伸び悩み腐っている中年男が妻を喪う物語を、西川美和監督が撮る。自分にとってこれほど怖く、しかし観ねばならないと急き立てられる映画もない。

結婚生活の間、幸夫のように愛人を作るような真似はしていない。けれど、妻のためにやれることを本当に全てやっていたか、となると、足らなかったと思えることは幾らでも出て来る。

やれるだけやったと人は言う。しかし、幸夫が夏子の最後の衣装を問われて戸惑うのと同じように、抜けていることは沢山あって、その度に取り返しのつかない後悔に襲われる。揉めて別れるなら、そこからは別の人生だ。しかし結びついたまま死に別れるなら、そこから二人の人生は一つになってしまう。二人が生きて同じ道を歩む「結婚」でさえ、二人の人生は二つのままなのだ。

だから、残された方は惑い、探し、荒れる。幸夫の荒れ方は、少し前の自分そのままだ。どうせ死んだんだから見えちゃいないという捨て鉢な感情と、いやきっと見てるはずだという喪った者に縋る感情、双方ともにみっともなさにまみれた感情が衝突して、荒れる。なんという観察眼なんだろう。

幸夫が陽一と子供たちに関わっていく行為は、夏子に出来なかったことへの代償ともとれる。映画はそんなことお見通しとばかりに描きつつ、少しずつ優しさを積み上げる。地震の中子供たちを抱きかかえさせ、子供が乗り過ごしたバスを夜中に追いかけさせ、幸夫が「おれはやってるよ」と感じるまで奮闘させ「やれるだけやったかな」というところまでたどり着かせるのだ。

その優しさが残酷でさえある。何をしても戻ってこないことは分かりきっていて、やれはやるほどそれを突きつけられるけど、やらずにはいられない。そんな男を突き放して冷静に描く視点が只者ではない。もう丸裸にされているのだ。

今、自分が手がけていることも、結局はその程度のことかもしれない。
こんなに大変なのに。
かなりキツい。

9
永い言い訳のポスター
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Daisuke O-okaのプロフィール画像

Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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