映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』レビュー

まずは肩の力を抜くことから

無類の音楽好きが高じてソロリサイタルを主催、出演する事になった大富豪フローレンス・フォスター・ジェンキンスだが、前代未聞の音痴である事を本人だけが知らなかった。かくしてその奇天烈な公演音源はカーネギーホールでナンバーワン人気の珍アーカイブとなり、今もその記録は破られていないという。

この実話を知った製作陣がフローレンス・フォスター・ジェンキンスにメリル・ストリープを起用した意図はよくわかるし、ストリープ自身も精力的に役に取り組んでいる。しかし『マーガレット・サッチャー』で3度目のオスカーを受賞して以後、彼女のやり過ぎなカリカチュア演技は留まる所を知らず、観客は胸やけ寸前だ。
冒頭、劇中劇で天使に扮したストリープ(!!)が天から降りてくる。一見ハタ迷惑なオバチャンが実は天使のようにピュアな心を持っているというのは近年の彼女の持ち役だが、今のストリープは演出意図や見え方ばかりを気にしていてハートが感じられない。マンネリ、やり過ぎの演技にはほとほとウンザリしてしまう。

ベテラン監督スティーブン・フリアーズが小粋で無難にまとめる本作の見所はマダム・フローレンスを献身的に支える男達だ。
56歳の皺が刻まれたかつてラブコメの帝王ヒュー・グラントはチャーミングさを少しも失っておらず、ウェルメイドな芝居の間合いであらゆるギャグを決めていく。肩の力が抜けたある種の“ちゃらんぽらん”さはマダム・フローレンスの内縁の夫というダメ男役にピタリとハマり、ついにはダンスシーンで比類ないスター性を再証明するのである。初のアカデミー賞候補も十分あり得るのではないか。

またマダム・フローレンスに付き合わされるピアニストを演じたサイモン・ヘルバーグも表情1つで笑わせるスマートな喜劇演技を披露している。2人とも、今のストリープにはない軽やかさを映画にもたらしており、職人フリアーズの采配が伺えた。

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マダム・フローレンス! 夢見るふたりのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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