映画『花芯』レビュー

女が階段を下る時

 映画にとって、“共感”ばかりを求めてみても、面白くない。

 原作は、文壇デビュー間もない瀬戸内寂聴が晴美時代に発表し、物議を醸した同名小説。同性同士の、友情と愛情との狭間で絶え間なく揺れ動く関係性の変化を、丹念に掬いとった『blue』(03)、見返りを求めることなく、自らの愛欲にひたすら身を任せる女性の姿を赤裸々に綴る『海を感じる時』(14)など、不器用なほど正直に、何者にも媚びず生きるヒロインたちをリアルに映し出してきた安藤尋監督は、夫と幼い息子のある身でありながら、別の男性に恋心を燃やす人妻に対しても、大いなる好奇心と適度な節度で接し、その波乱の顛末を、じっくりと見届ける。

 ややもすると、同性からも異性からも反感を買いそうな難役に、果敢に挑んだ村川絵梨は、否応なく共感を強いられる、朝の連続TV小説出身というイメージを、清々しいほど潔く捨て去ってみせる。最愛の相手にまで、“からだじゅうのホックが外れている”と言わしめるほど無防備であるように見え、固く閉ざされた心の奥底では、得体の知れないものがうごめいている。きわめて心身のバランスの崩れた女性を、退廃的な笑みを浮かべて、ミステリアスに体現する。

 さらに、そんな奔放な彼女を、複雑な思いを募らせつつ傍らで観察し続ける、常識的な妹とのコントラストが、センセーショナルな題材に、人間ドラマとしての奥行きと普遍性を添える。かねてより義兄を密かに慕い、家庭を放っぽりだした身勝手な“お姉さま”に代わり、ありとあらゆる面で献身的に尽くしてきた妹。姉妹対決最終戦、すべて失ったかのような姉との久々の再会に、“姉さん”と呼びかけ、精一杯強気の態度で臨むも、姉の瞳の中に、妹の姿は映らない。階段を颯爽と降りていく姉の背中に、あの寂聴さんの満面の笑顔が一瞬重なり、ぞわっと身震いした。

8
花芯のポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0
服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

映画『花芯』に対する服部香穂里さんのレビューにコメントする

こんな作品もレビューされてます

パワーレンジャーのポスター

ゴー(笑)ゴー(笑)パワーレンジャー(笑)

  日本発の戦隊ヒーロー物がハリウッドで本気の実写化。太古...

杉原千畝 スギハラチウネのポスター

感動の実話

 杉原千畝さん、こんな偉大な日本人がいたなんて。自分や自分...