映画『マクベス』レビュー

時代に内在する“鬱”

シェイクスピア劇鑑賞の醍醐味はその解釈の違いに目を凝らす事だろう。ジャスティン・カーゼル監督による本作は冒頭、マクベス夫妻が幼い子供を弔う場面から始まる。確かにマクベス夫人の台詞で“子供を育てた事がある”とその存在は言及されてきたが、本作では我が子の喪失が二人を沈痛な鬱状態へと陥らせ、かの凄惨な殺人、暴虐へ駆り立てたと動機付けられているのが新鮮だ。

本作は原作戯曲に添ってスコットランドでロケされた。どんよりと雲が立ち込め、荒涼とした風景が連なる欝々としたランドスケープにこの物語がこの土地でしか生まれ得なかったのだと再認識させられる。さらにカーゼルはセリフの大半を心理的なモノローグとし、情熱的なセリフの応酬が胆であるシェイクスピア劇(それも本作のような戦記モノ)に稀に見る体温の低さを持ち込んだ。

世継ぎの不在、子に先立たれたことの絶望がマクベス夫妻を神経衰弱に陥らせたのか。冒頭の戦闘で討ち死にした少年兵もおそらくマクベスの息子(長男)なのだろう。マクベス夫人が赤子の死に追いつめられるのなら、マクベスはこの将来有望な長男に期待していたのかもしれない。

シェイクスピア劇を楽しむもう1つのポイントは難役に挑む役者の華を堪能する事だろう。苦悶し、猛る男の彷徨はマイケル・ファスベンダーの面目躍如。アップル創業者役よりもずっとハードな難役に挑んだ彼の力強いパフォーマンスはスターの色気も孕んで酔わせてくれる。マクベス夫人役のマリオン・コティヤールも終幕の長回しで圧倒する充実っぷりだ。

さらなる戦乱の予兆であるフリーアンスの存在にも言及した幕切れからも製作陣がこの血生臭く、陰惨な戯曲をよく読み込んでいる事がわかる。シェイクスピアはいかなる時代にも混乱を生む“鬱”が内在していることを看破していたのだ。

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マクベスのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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