映画『ズートピア』レビュー

アメリカ映画の風景

“ディズニー映画を見たな”というよりも“アメリカ映画を見たな”という読後感に近い。正義感の強い田舎娘が警官になる事を夢見て上京するが「女に何ができるんだ」とセクハラを受け、しがない駐車違反のキップ切りに留まる。彼女の前に現れたのはケチな詐欺師の男。彼女は昔ながらの信用詐欺にコロッと騙されてしまう…というノスタルジックな映画的デジャブ。

はたまた事件が起こる。件の警官と詐欺師がコンビを組んで48時間以内に真犯人を見つけようとするこのデジャブ。もちろん、あからさまなオマージュ、ギャグも盛り沢山だ。ネズミ一家はコルレオーネファミリーのような栄華を誇り、ヤクの密売人コンビはウォルターとジェシーと呼ばれる。

一番グッときたのは夢破れたヒロインがカントリーロードで昔なじみと再会するシーンだ。70年代ニューシネマがデジャブするが、これは2016年のディズニーアニメだ。ヒロインはウサギで詐欺師はキツネ、舞台となるのは動物たちのNYこと“ズートピア”だ。

しかし、一見カラフルなこの街にも目を凝らすと差別と偏見が満ち溢れている事がわかる。前述のヒロインはウサギだからとセクハラを受け、キツネは“嘘つきばかりだ”と蔑まされる。黒幕は根拠なき不安と恐怖を煽って特定の種族を陥れようとする。世界はありのままでは生きていけない醜さを持っている事をしっかり描くディズニー。ヨーロッパでの難民問題、日本のヘイトスピーチとレイシズムは今やアメリカのみならず世界を覆い尽くす事象であり、それを7人がかりで盛り込んだ脚本家軍団の果敢さはピクサー合流後のディズニーの到達点と言っていいだろう。そしてこの人種の多様さを描く事こそアメリカ映画だけが持ち得てきたテーマではないか。

全米での大ヒット(おそらくアカデミー賞も射程圏内)を受けて続編製作もスタートした。今度はどんなアメリカの風景を見せてくれるのか楽しみだ。

9
ズートピアのポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0
長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

映画『ズートピア』に対する長内那由多さんのレビューにコメントする

こんな作品もレビューされてます

新聞記者のポスター

【この国の民主主義は形だけでいいんだ】

 おもしろい! どれくらいおもしろかったか? 横のおじ...

パティ・ケイク$のポスター

ニュージャージーのラッパー NR

 ニュージャージー版、 サイタマのラッパー? ニュージ...