映画『FAKE』レビュー

愛と誠

 あの佐村河内守のゴーストライター騒動の、知られざる”その後”を追ったドキュメンタリー……などと安直にはまとめられない仕掛けを、鬼才・森達也が到る所に忍ばせた、創意と悪意、プラス、ちょびっとの善意に彩られた、ユニークな問題作である。

 タイトルそのままに、カメラに向け、神妙な面持ちで語りかける佐村河内氏の発言の信憑性は不明であるし、そんなことは百も承知とばかりに、森監督も、氏の信頼を獲得しながら、それとは分かりにくい形で、執拗に罠を張り巡らしていく。

 そんな中にも、真実は存在する。三度の飯よりも豆乳好きで、少々メタボ気味のにゃんこを愛でる、佐村河内氏の地味なプライベート。そして、18年間も難破すれすれの危険な船に同乗してきた新垣隆氏への、異様なまでの執着である。衝撃の告白後、一躍時の人になった彼の出演するTVや掲載誌は、もれなくチェック。女芸人相手に壁ドンしたり、ファッションモデルを気取ってみたり、いかなる依頼にもノーとは言わない新垣氏の、バラエティ豊かすぎる仕事ぶりに逐一ダメ出しをし、自分への背徳ととれる行為や発言には、激しい憎悪をぶつける。しかしこれって、ねじれた愛情表現ともいえるのではないか。誰よりも、氏の音楽的才能と口の堅い(!)誠実な人柄を信頼していた佐村河内氏ゆえの、身勝手な怒り。サリエリとモーツァルトの関係が、ふと頭をよぎったりもする。

 森VS佐村河内。食えないタヌキ同士の、水面下での熾烈な攻防が、最後の最後には予期せぬミラクルまで呼び起こすのだから、やっぱり映画って面白い。

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FAKEのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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