映画『アイアムアヒーロー』レビュー

こ、これは中年男の青春物語だ!

 漫画原作であることも知らず、一切の前情報を仕入れずに鑑賞。そのおかげかサプライズ連続の楽しい127分だった。

 突如広まった謎のウイルスによって人々は次々にゾンビと化していく。日常が一挙に崩壊し生き残った者たちがアウトレットモールに立て篭もるという筋書きは見慣れたあるあるだが、舞台が日本なだけにより身近に混乱ぶりを感じられ新鮮だ。ゾンビには生前の記憶があり、例えばショップ店員ゾンビは「いらっしゃいませ」を連呼したり、大学の陸上選手ゾンビは走り高跳びの練習をしている。その他大勢のゾンビにもそれぞれ個性があり、しかもそれが伏線として後々大きく効いてくるのだから恐れ入る。

 気になったのは有村架純演じる女子高生“比呂美”だ。ウイルス感染者の彼女はしかし完全にゾンビに変貌することは無く、大泉洋演じる英雄(ひでお)を食べようとしたゾンビを凄まじい力で蹴散らすと、そこからは眠り込んだまま。その後何度も英雄が窮地に立たされる度に「比呂美が覚醒して状況を打開してくれるんじゃないか」と期待するが、結局最後の最後まで何も起きず。

 比呂美覚醒という切り札をちらつかせながらも最後まで切らなかったのは、この映画が英雄の成長物語であるからこそ。英雄は良い年して漫画家で成功する夢を諦めきれない残念な大人であり、甲斐性も無ければ根性もないダメ男だ。そんな彼が危機的状況の中でその名の通り「ヒーロー」として成長する姿こそが本作の最大のテーマであり、肝心なところで比呂美が助けてしまってはその前提が崩れてしまう。「男だったら大切な人はテメーの手で守りな」というサディスティックな熱いメッセージで直球勝負の、これぞ中年男の青春物語である。

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アイアムアヒーローのポスター
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奥 直人

映画暦15年。思いのままをレビューにぶつけていきます。

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