映画『マジカル・ガール』レビュー

アトムの子

 日本の幅広いカルチャーにも精通した、スペイン期待の新鋭による、恐るべき劇場デビュー作。

 13歳まで生きられないであろうことを自覚しながら、日本製のアニメーション『魔法少女ユキコ』(『魔法のプリンセス ミンキーモモ』あたりがモチーフか?)に憧れを抱く白血病の少女。そんな限りある時間の中で大好きなパパと少しでも長くいたい娘の心親知らずで、空転、迷走を続ける失業中の父親。得体の知れない不安や恐怖からか、破壊衝動に身を任せて自らを傷つけてばかりいる人妻。かつての教え子との因縁の再会により、抑圧してきた暴力性を覚醒させてしまう元教師……。いわゆる悪人はいないのに、大切なものを何としても守りたい想いを暴発させる、滑稽なほど人間くさい彼らそれぞれの愛情が、ややこしく錯綜し、もつれにもつれて、負のスパイラルの渦へと呑み込まれていく。

 あまりに救いがなさ過ぎて、思わず笑けてきさえするシニカルな展開の中、身体は虚弱、心は無敵の最狂ヒロインの降臨が、涙ぐましいミラクルを起こす。アイドル時代の長山洋子のメランコリックなデビュー曲をバックに、招かれざる侵入者を一点の曇りもなく見据える彼女のまなざしの凛々しさが、取り返しのつかない絶望的な現実をも凌駕し、束の間、映画的な高揚感が生まれる。

 ひとの生命なんて、まるで手品のごとく、あっけなく消え失せてしまう。それでも、この世界に確かに存在していた証は、時として、忘れたくても忘れようのない悲劇や、癒しがたい傷跡となって、いつまでも留まり続ける。そんな痛切な後味を残す、悪夢のような傑作である。

9
マジカル・ガールのポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1
服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

映画『マジカル・ガール』に対する服部香穂里さんのレビューにコメントする

こんな作品もレビューされてます

マイティ・ソー バトルロイヤルのポスター

雷神・ライジング

  以前どこかのサイトで「映画とは破壊と再構築だ」的な理論...

女神の見えざる手のポスター

オピニオンリーダー・チャステイン

 米国に遅れること1年の日本公開となったが、相次ぐ銃乱射事...

ゲット・アウトのポスター

アメリカで黒人であること

 どっひゃ~! これはとんだ怪作、快作だ。 現代の低予算ホ...