映画『イット・フォローズ』レビュー

「それ」に名前は要らない

 ルールは単純明快。一度取り憑かれると「それ」はどこまでも追ってくる。日夜を問わず、様々な人物に姿を変えながら追ってくる。「それ」はノロノロと歩いてくるので、逃げるのは簡単だ。だけど逃げても逃げても必ず姿を現す。「それ」を振り切る方法はただ一つ、誰かと寝て感染させること。ただし移した相手が「それ」に殺されてしまうと再び自分がターゲットに戻ってしまうため、さらに他の人に感染させるように促さなければならない。

 シンプルなアイデアの中には、古今東西のあらゆる「恐怖」が凝縮されている。ノロノロと迫ってくる「それ」はまさしくゾンビを連想させ、どこまでも付きまとう理不尽な死の恐怖は霊に逆恨みされるJホラーを観ているかのよう。「他人に移す」という無責任な回避方法はチェーンメールや不幸の手紙にも似た部分があり、イチャつきたい年頃のお盛んな若者がターゲットにされるのはB級ホラーあるあるだ。追われる側の視点から捉えた映像は、近年流行りのPOV的な面白さにも満ちている。

 執拗に追い回してくる正体不明の化け物はタイトル通り「It(それ)」と呼ばれ、具体的な名前を持たない。あらゆる恐怖要素を集約した「それ」は人種や国境を問わず世界中の人々が共感する恐怖の最大公約数でもあり、だからこそ名前が必要ないというのは考え過ぎだろうか。とりあえず今の僕は、この映画の面白さを一人でも多くの人に伝えて感染を広げたい衝動に駆られている。

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イット・フォローズのポスター
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奥 直人

映画暦15年。思いのままをレビューにぶつけていきます。

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