映画『ザ・ウォーク』レビュー

地上411メートル、世界最“高”のクーデター

 1974年、完成間近の世界貿易センタービルの屋上、地上411メートルの高さにワイヤーを張りその上を歩くと言うとんでもない曲芸を成功させた、フランス出身の大道芸人フィリップ・プティ。劇中で彼はその計画を何度も「クーデター」と呼んでいるのが印象的だ。

 パリの街中で曲芸を披露する際、彼は必ず自分の周囲を白線で丸く囲っている。競技中のコートや上演中のステージに観客が上がってはいけないのと同じく、彼もギャラリーのつま先が白線を越えただけで異常なまでの嫌悪感を示す。円の中は彼にとっての舞台であり、彼が支配する王国でもあるからだ。

 ところがこの王国は事前に許可を申請したものではないため、そのうち警官がすっ飛んできて退散せざるを得ない羽目になる。何とかして自分の王国を築きたい彼の目に留まったのは、当時人工物としては世界一の高さを誇った前述の貿易センタービルであった。地上411メートルの高さなら誰にも邪魔されないし、警官だって入って来れやしない。この世の法律や常識に逆らって自分だけの王国を社会の中に実現しようとする挑戦は、まさにクーデターだったという訳だ。

 命知らずな綱渡りは世界的なニュースとして報道され、人々から拍手喝采を浴びた。同じ違法行為でも「何を馬鹿なことをやってるんだか」と嘲笑されずに偉業として賞賛されたのは、単なるスリルジャンキーによる自己満足の挑戦ではなく、王国樹立を目論む彼なりの“政治的主張”が込められていたからなのかもしれない。結果的に一人の死者も出さなかった綱渡りは、史上最も鮮やかなクーデターと言えそうだ。

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ザ・ウォークのポスター
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奥 直人

映画暦15年。思いのままをレビューにぶつけていきます。

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