映画『パディントン』レビュー

現実世界に迷い込んだ小さな熊のファンタジー

 大地震で家を失った熊のパディントンはペルーからイギリスへと渡航を決意。長旅の末にロンドンの駅へと辿り着く。アメリカ映画なら駅の人混みにパディントンが現れた途端に周囲の人間はパニック、もしくは写メを撮ってツイッターにアップし、ネット上で散々話題になって一躍メディアの人気者、なんて展開になるんだろうけど、ロンドンっ子たちは目を合わせることすらなく通り過ぎていく。

 パディントンが早々に味わうこの孤独。これこそかつて新天地を夢見て出発した移民たちが経験した風景だろう。そう、物語の根底に近世より続く欧州の移民問題が横たわっているのは火を見るより明らか。パディントンが繰り広げる冒険はまさしく欧州移民の歴史の映し鏡でもあり、異国の地での熊の家探しは人間のアイデンティティの探求にも繋がっていく。

 ここ最近のニュースにもある通り、移民問題はますます混迷を極めるばかり。現実には流血すら伴う事態になっているのでとても映画の中のようなハッピーエンドとは程遠いのだが、一方で本作はそんな深刻な問題を熊の冒険に置き換えることで、笑いあり&涙ありの活劇として昇華させることに成功している。かつてチャップリンは「独裁者」の中で平和を訴える演説を繰り広げ、世界大戦に一筋の光を見出した。もちろんそれはあくまでも創作であり現実とはかけ離れているのだが、心を動かされた人は多いだろう。たとえ作り物であっても、時には事実にも勝る説得力で魔法をかけてしまう。現実世界に迷い込んだパディントンのファンタジーは、そんな子供じみた幻想ですら本気で信じさせてくれる。

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パディントンのポスター
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奥 直人

映画暦15年。思いのままをレビューにぶつけていきます。

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