映画『007 スペクター』レビュー

ボンド、女を「生かす」。

今回の007はメキシコの「死者の日」に幕を開ける。砂埃を物ともしない大群衆、骸骨をモチーフに頽廃と生命がぶつかり合う祭。ボンド(D.クレイグ)に自分の視線を重ねるとき、これほど意味深い舞台も無い。既にボンドは自分を幾分「死者」だとでも思っているのかも知れない。ヴェスパーを失い、Mも失った。どれほど敵を追い、斃そうが、愛した女が戻ってくるわけじゃない。

けれど「生きる」ということはダテじゃない。ルチア(M.ベルッチ)を籠絡しつつ解放するボンドには大人の円熟がある。そして50歳を過ぎたモニカがボンド・ウーマンを演じるマリアージュは天啓だ。本当の意味で「永く美しくあり続ける」とはどういうことか。登場シーンは短いが、モニカの生き様がルチアの役柄に重なり、鮮烈ににじみ出ている。

そしてマドレーヌ(L.セドゥ)。ダニエル・ボンド時代の永遠のボンド・ガールと位置づけられるヴェスパー…エヴァ・グリーンを超えて、前に出る存在感。誰が言ったか「生きている者こそが勝者」という意味が際立つ。知性と透明感。そして酷薄な人生を経たからこそ知る深い衝動と愛。この深みこそ「大人」。レアは「いる」だけで底知れぬドラマを醸しだした。

様々な期待や評があふれ、アクションや衣装、ガジェットが注目を集める中、おれにとって今回際立ったのは「女を生かすボンド」だ。人生糾える縄の如し。発端はどうあれ女と出会い、思いを共有し、死地をかいくぐる。そんな女を追いかけ守りぬくのは頭脳と肉体と意志をフル回転する地獄の作業。終盤の戦いは、きっとボンド自身への贈り物であり、人生に取っ組みあいながらボンドのようにありたいと憧れる全ての大人たちへの贈り物なのだ。

全てのカットが陰影豊かで、一幅の絵画に等しい。砂漠に降り立ったボンドとマドレーヌのワンカットに、詩情と情熱が溢れている。佳い女と旅をしたい。心から憧れる。

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007 スペクターのポスター
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Daisuke O-okaのプロフィール画像

Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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