映画『鑑定士と顔のない依頼人』レビュー

ピーピングトムって興奮するよね

主人公の鑑定士は社会的な地位と名誉を得ている。彼の判断する鑑定結果は「正しい」とされるのは、その社会的地位ゆえであって客観的な尺度はない。本来客観的な尺度である炭素年代測定をも覆す権威がある。悪行をなしてもそれによって芸術の真(価)が変わるはずもないこともよく知っている。醜くなるのはドリアングレイの肖像とは逆に自分自身であることも知っている。富の集積に腐心し、それが人生の成功だと考えている。
ひるがえって依頼に出会って真実は彼女の側にある(隠されている)。数十年かけて培ってきた真贋の眼はここでは不具でしかないが、どこまでも試され続ける。壁の向こう側から依頼人がこちらを覗き込んでいるのを見ていた彼が、今度は男女が抱き合う像の間から恐る恐る覗き込む。
真の依頼人の姿を求めて、人生の中で思ってもみなかった翻弄を体験し、隠された真の姿を体験したとき平穏や親和を感じる。この一方向的な親和感は、依頼人のために老体に鞭打ち階段を駆け上がり、自分をひた隠しにしていた象徴である手袋を外すことで実現した。実現と共に主人公を取り巻く世界も一変する。
鑑定士が病を抱えた依頼人を外に出すことで快癒に向かうと考えていた彼が、実は快癒に向かっていたのであって癒されたのは彼の方だった。
壁の向こう側にいたのは、実は依頼人ではなく彼自身だったのかも知れない、そう作られている。
ガジェットとして登場する、真実しか語らないオートマタが幾度も幾度も鑑定士に語りかける。 「いかなる偽物の中にも必ず本物が隠れている。見抜けなかったね。」この命題は正しいのか?「本物の中にも必ず偽物が隠れている、見抜けなかったね。」が正しいと思えるのだが、しかし鑑定士はこのオートマタの命題を正しいと判断するのだった。あるいはそれに賭けるのだった。
それこそが彼が快癒した何よりの証拠なのである。

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鑑定士と顔のない依頼人のポスター
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弐個 四のプロフィール画像

弐個 四

本棚に並べたDVD画像をSNSで自慢げにさらすような大人にはなりたくない。

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