映画『イヴ・サンローラン』レビュー

美と愛に囚われた人生。

本編の前に、ドキュメンタリー版の「イヴ・サンローラン」(2011年日本公開)を観ておくことを強くお勧めする。イヴの盟友ピエール・ベルジェを語り部にしたイヴの世界は、単に一デザイナーの生涯を越えて、それを支える西欧の貴族社会をも垣間見させる。

フランスの演技研究機関コメディ・フランセーズに属し、オーディションから5ヶ月の特訓を課して現れたピエール・ニネは、存命のベルジェ本人をして「彼ではないかと当惑した」と言わしめた。ここに仏演技界の凄みがある。

天才に秘められた落差。モデルからの好意をもてあまし、ベルジェへの愛を露にする。その様が周囲を愛憎の渦に巻き込み、自らも傷を深めていく。しかしその揺動が創造へのエネルギーと表裏一体であったことは想像に難くない。孤独とスランプの最中に発見した「モンドリアン」の意匠。それをドレスのデザインに立ち上げる筆致は素早く迷いが無い。彼の幸福は、実は恋人たちとの愛の交歓ではなく、この忘我の瞬間にあったのではないだろうか。

ベルジェを演じるギョーム・ガリエンヌも隠然たる迫力。スターを支える裏舞台は欲得の丁々発止。イヴを守るためにどんな悪徳に手を染めたのか。それさえも愛。

イヴの創造を刺激するルルにローラ・スメット、悪友ベティにマリー・ドピルバン、いずれもセレブの生まれならではの高貴で放埓な存在感。この分厚さが仏映画界の豊かな武器なのだ。

変転を経てイヴが再起する「バレエ・リュス」。派手に動かぬカメラが、人間の目線で誠意を持って「美」を伝える。単なる衣服を超え、モデルの肉体と化学反応を起こして見る者の神経細胞を鳴動させるコレクション。仏W杯開幕を飾った国家の威信たる「美」は、孤独な「愛」を土台にして生まれたのだ。

マラケシュの別荘の一室。強烈な太陽から隔絶された影に、描くイヴと寄り添うベルジェ。ここに創造への孤高がある。強烈な1カットだ。

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イヴ・サンローランのポスター
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Daisuke O-okaのプロフィール画像

Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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