映画『消えた画 クメール・ルージュの真実』レビュー

シネマとイマージュと

人類史上、度々繰り返されてきた虐殺の最もたる非道さはそれまでの文化を破壊し、跡形もなく消し去ってしまう事だ。1975年、カンボジアに現れた共産主義政権クメール・ルージュは“平等”を旗印に人々を強制労働下におき、思想を統一し、文化を破壊した。労働資源として使い捨てられた人々は名前を奪われ、人間としての尊厳を踏みにじられたのである。

当時13歳だったリティ・パニュ監督は両親兄妹を殺され、やがてカンボジアを脱出。後にフィルムメーカーとしてポル・ポト政権の非道をドキュメントしていく。クメール・ルージュが製作した公式記録のシネマしか存在しないカンボジアに対し、彼は自らのイマージュ(記憶)を頼りに死者の眠る土地から土人形を作って奪われた時を再現していく。それは彼が自らの記憶を辿る旅であり、虐殺によって命を落とした人々への鎮魂である。華やかなありし日のカンボジアへの憧憬、救う事のできなかった家族への悔恨、そして生き残ってしまった事の罪悪感の悲痛さが胸を打つ。偏った思想が文化を破壊し、人を殺し、一生涯のトラウマを残すのだ。

「アクト・オブ・キリング」に続き、独裁政権のプロパガンダとして機能した映画史の闇を僕らは垣間見る。その強大な力に一個人のイマジネーションが抗う本作は、映画が一個人の人生を支える大きな可能性を持っている事も改めて教えてくれるのだ。

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消えた画 クメール・ルージュの真実のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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