映画『消えた画 クメール・ルージュの真実』レビュー

揺るがされる動画の真実性

ポル・ポト率いるクメール・ルージュ圧政下の大虐殺を家族でただ一人生き延び、13歳でカンボジアから脱出したリティ・パニュ監督による、クレイアニメ。いや、アニメではないな。死体が埋まった田んぼの土で作った泥人形に彩色し、ナレーションを付けて、当時の状況を再現している。基本的にこの人形は動かない。
クメール・ルージュは、カンボジアの人民から音楽や本や映画を取り上げた。過去のフィルムは缶に入ったまま焼かれた。その中からかろうじて使えるコマを拾い出した映像とクメール・ルージュ作製のプロパガンダ映像が、時折挿入される。
4頭身の、目と髪だけ黒々と塗られた人形は、写実的とは程遠い。だが、ずっと観ていると、悲しみやあきらめの色が、その真っ黒な瞳の中で次第に濃くなっていくのがわかる。対して、プロパガンダ映像の中の人々は無表情で、全員が決められた黒い作業服に身を包み、個性が見えない。
実写映像は政治犯収容所として使われた学校の壁や、死んだ子ども人形の身体を覆う白い布をスクリーンにして映し出される。プロパガンダが人々の記憶や意識を上書きしたことを、様式が象徴する。しかし、その裏側に無数の死体が埋まっていることを観客は知っている。だからゾワゾワする。動画だから真実だという思い込みがいかに浅薄なものかを知らされ、ゆすぶられる。
本作には「アクト・オブ・キリング」のような虐殺者の斬新な視点はない。監督は「大所高所からのファシズム糾弾ではなく、もっと地道な、死んでしまった人たちが生きていたらどんな風だったろうかという真実を追い求めた」とコメントしている。見聞きした小さな範囲を人形による再現で描写したことで映画はかえって大きな真実に近づいた。なぜファシズムを許してはならないか。それは大衆の文化を破壊するからだ。この映画は失われた文化の続きを編むために草を育てる種まきの小さな一歩なのだ。

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消えた画 クメール・ルージュの真実のポスター
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高野 夏のプロフィール画像

高野 夏

おかしな小品に限りなく心をひかれます。

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