映画『ラッシュ プライドと友情』レビュー

愛と憎しみの富士スピードウェイ

1976年、F1黄金期に繰り広げられたジェームズ・ハントVSニキ・ラウダの伝説的戦いを描くロン・ハワード監督作。脚本はノンフィクションものの名手であり、ハワード監督に2度目のオスカー候補をもたらした「フロスト&ニクソン」のピーター・モーガンだ。「ラスト・キング・オブ・スコットランド」「クイーン」など誰もが知る有名人の実話にたった1つのフィクションを織り込む事でドラマにダイナミズムをもたらしてきたモーガンの手法だが、今回の2人はそもそもの実話があまりに劇的過ぎた。レース中のクラッシュによる炎上で瀕死の重傷を負ったラウダはわずか42日後に復帰し、首位を走るハントとの最終決戦に挑む…神が書いたシナリオとでも言うべき実話にさすがの名脚本家も筆を加える余地がなかったのではないか。事実以上の大胆な解釈が見られず、エピソードの列挙に終わってしまったのが何とも惜しい。

しかし、劇的すぎる実話をハワード監督はさすがの職人技でゴージャスに彩っている。レースシーンの迫力はもとより、同時代の映画を彷彿とさせる映像の質感、豊饒な画作りが魅力的だ。ラウダが後に妻となるマリア夫人と出会うシーンは実に幸福な映画時間が流れていた。

ラウダに扮したダニエル・ブリュールはオスカーノミネートこそあと一歩及ばなかったが、ついに代表作を得た。外見のみならず喋り方まで実在のラウダをコピーし、ただ「アイツにだけは負けたくない!」という執念だけで肺から膿を吸い出すシーンの壮絶なこと!儲け役を得て、今後さらなる飛躍が期待されるだろう。

愛憎にも近い想いで決戦の地、富士スピードウェイに降り立つ2人はスタートの刹那、互いに視線を合わせる。あまりの劇的瞬間に“そんなバカな!”と身悶えするが、小説よりも大胆な2人を描くにはこんな過剰さはもっとあっても良かったのではないか。

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ラッシュ プライドと友情のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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