映画『her 世界でひとつの彼女』レビュー

言葉にならない。

単に「人間の男と女声のOSの恋」だなんて思っていると大間違い。この映画はあらゆる意味での「進化」を内包していて、深みと広がりがある。

OSが人間と共に悩む。悩みの根本は「肉体を持たないこと」。持てば持つだけ悩みをもたらす肉体を持たないとなれば「顔を見れない」「触れられない」。その一方で、思念だけでつながりどこまでも共有と拡張を進められる。

数多くのユーザーと愛し合いながらも「あなたへの愛は深まるばかり」というOS。人間なら誰しも抱く「【唯一の人】以外の誰かへの思い」を罪悪感もためらいもなく当然のものとして昇華する。それは肉体と独占欲をもつ人間が、嫉妬や不実や憎しみで絶えず諍い調和できない「進化の限界」を裏側から指摘している。

そして「同時に他の誰かを愛したって良いじゃない、愛の総和が多いなら。可能性が広がるなら」と、進化した愛の形を人間社会に向けて提案しているようにも見えて、自分の神経細胞のチャンネルが音を立てて開いていくような感覚に襲われたのだ。

一対一であるべきだという人間側の既存の道徳と、WEB空間で人工知能が自律して結び合う最新の可能性を鮮やかに対比して、人間の「愛の限界」を突きつけながら、それ故の切なさをも肯定している。OSサマンサ(S.ヨハンソン)が去った後にセオドア(J.フェニックス)がキャサリン(R.マーラ)に送るメールのシーンは、切なさと温かさに溢れている。

LAの摩天楼、街の舗道、冒険デートでたどり着くビーチ、あいまいな色合いで移ろう空。人工的な感触だけれど柔らかくて愛おしい世界。このデザインも優れている。こんな空が来ればいいとさえ素直に思ってしまう。

などと言葉を連ねたけれど、どんな言葉でも説明できない。あの神経細胞の震えを。OSの物語がおれを「進化」に立ち会わせた。それは、心にも頭脳にも温かい何かが流れ込んで循環し始める瞬間だった。

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her 世界でひとつの彼女のポスター
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Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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