映画『グランド・マスター』レビュー

夢は李小龍へ

第二次大戦前夜の中国。時代の波に呑まれ、やがて忘れ去られていったカンフー伝承者達を描くウォン・カーウァイ監督作。
エピックものにも関わらずいつもの即興撮影が多かったのか、全体的に間延びした印象の語り口だが、相も変わらぬムード重視の画作りがユエン・ウーピンを迎えたカンフースタントに独特の優雅さを持ち込んでいる。後にブルース・リーの師匠となる事でも知られるイップマンをトニー・レオンが軽妙洒脱に演じ、彼に焦がれるルオメイにはチャン・ツィイーが扮した。まるでダンスを踊るかのような2人のスタントにカーウァイはゆったりと愛の香りをはらませていくのだ。
但し、編集段階までどんな映画になるのか全くわからないカーウァイの作風のせいで、素晴らしく研ぎ澄まされ、艶っぽいチャン・チェンが本筋に全く絡まないのは残念でならない。

父の敵を討つために女を捨てて武術家の道を選び、やがて復讐心から全てを失ってしまうルオメイにチャン・ツィイーは凄味と哀しみを込めた。時代に翻弄され、疲れ切った彼女が長年の想いをイップマンに吐露するシーンはカンフー(武狭と言ってもいいかもしれない)の一時代が終わる瞬間であり、僕らは歴史の陰に人知れず消えた幾百もの武門を想うのである。

夢は一人の少年へと受け継がれていく。名前こそ言及はされないが、映画の最後でイップマンが手解きする少年が誰なのかは言わずもがなであろう。「グランド・マスター」は時代の栄枯盛衰、“つわものどもが夢の跡”を描いたわびさびが魅力である。

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グランド・マスターのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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