映画『グランド・ブダペスト・ホテル』レビュー

好奇心も才能。

冒頭からイカしてる。文学少女が作家の墓地を訪れ、彼の遺作を読む。その表紙が映画のタイトルなのだ。ある意味この少女がウェスであり、観客でもある。架空の東欧某国・大戦前夜が舞台になる物語は、隠然と貴族社会が息づき、文学と芸術が寵愛されていた時代を背景にしている。現実世界でも、東欧(すなわち旧共産圏)は地政学的な閉鎖性の中で、独自の感性を育み、デザインや表現に反映させてきた。それがウェス本人の感性と共鳴して生まれる世界。極彩色ながら曇り空の下でしか映えない陰影を備えている。

ホテルの伝説的コンシェルジュ、グスタフ・H(レイフ・ファインズ)を始めとして、ロビー係のゼロ(トニー・レヴォロリ)以下、ほとんど全ての登場人物が「孤独」だ。だからこその「自由」と「責任」を意識している。反射的に取られる全ての行動に葛藤や迷いが無い。動かぬカメラの中を真横に、奥から手前に、手前から奥に疾走する彼らの動きは、背景となる世界と相まって滑稽に映るが、その滑稽さを裏付けているのが「今を切り抜けねばならない真剣さ」であり、孤独ならではの責任感なのだ。

個人的には菓子職人のアガサを演じたシアーシャ・ローナンの可憐さに撃たれまくり。頬に痣を足すという造形もニクい。マダムD家のメイド・クロチルドのレア・セドゥといい、若手女子のキャスティングがいちいちツボ。アガサには「プロイセン風邪」で早くして亡くなるという結末まで用意されていて、時代を背景にした儚さまでが人物造形に供されている。

大戦期を過ぎ廃墟同然となったホテルの造形もまた趣き深い。案内のアルファベットがキッチュに並ぶ中、トラッドを少し着崩した作家紳士(ジュード・ロウ)が老ゼロと語り合うシーンも、またどこかで見た夢のような絵心だ。好奇心の結実としての映画が、観る側の好奇心をも刺激してやまない。ラスト1カットが効く。エンドクレジットと音楽も見ものだ。

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グランド・ブダペスト・ホテルのポスター
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Daisuke O-okaのプロフィール画像

Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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