映画『ローン・サバイバー』レビュー

超越的な善意

2005年にアフガニスタンで19名ものアメリカ兵が戦死した“レッドウィング作戦”を描く本作はありあまる海軍への敬意が注がれた事によってそこで起きた本質を見失っており、時代錯誤なプロパガンダ映画に成り下がっている。多くの人が命を落としたのは痛ましい事実だが、彼らの決断によって導き出されたこの結果はより大きなものを象徴している気がするのだ。

4人の偵察兵は斥候中にヤギ飼いの民間人と遭遇、これを捕縛する。ここで彼らは困難な選択に直面した。民間人である彼らを解放すればタリバンに通報されてしまう。しかし、彼らを殺す事は軍規は元より人道に外れる。相談の結果、ヤギ飼い達を解放するが200名のタリバン兵に包囲されてしまうのだった。

白昼の高山地帯で繰り広げられる包囲戦は見た目にも珍しい。数で勝るタリバンを技で勝る4人が迎え撃つがアクション映画としての快感は皆無であり、剥き出しの岸壁を転げ落ちるシーンは思わず顔をしかめてしまう程に痛い。やがて隊員は1人ずつ命を落とし、さらには救援ヘリまでもが撃墜されてしまうのだった。

唯一の生存者であるラトレル隊員を救ったのは驚くべき事に現地アフガンの村民だった。手負いの者を見殺しにしてはならないというパシュトゥーンの掟によって九死に一生を得るのだが、当然ラトレルは自分の身に降りかかっている事態が何か超越的な善意である事を理解できていない。ピーター・バーグ監督はここからの展開に注力すべきだったのではないか。事実3日間に及んだこの事件をたった1日に短縮し、ラトレルと村民の交流を駆け足にしたのは後に彼らの友情が続いた事からも本質を見誤っている。この3日間にラトレルの一生変えてしまうような交流がもっとあったのではないか。「ローン・サバイバー」は観客の想像力を下回った結果、イデオロギーや人種を越えた善意が命を救う普遍的な映画になるチャンスを逃してしまった。

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ローン・サバイバーのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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