映画『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』レビュー
モノクロームの彩度
〈GOOD YEAR〉と書かれた広告用飛行船に乗りこみ、急き立てられるように8万人を巻き込む爆弾テロに向かうのは、ベトナム戦争による社会落伍者ブルース・ダーン。周りの理解なんて要らん。知るか。オレにはこれしか生き方が見つからなかったんだ!
あ違った『ブラック・サンデー』じゃなかったね。
もとい。
〈GOOD YEAR〉の看板を背に、100万ドルの懸賞を受け取るため、急き立てられるようにハイウェイをひた歩くのは、朝鮮戦争による社会落伍者ブルース・ダーン。周りの理解なんて要らん。知るか。オレにはこれしか生き方が見つからなかったんだ!
空手形に一縷の望みを託した死にぞこない。
ペイン監督はこの役にブルース・ダーンしか考えられなかった。そりゃそうだ、こんなのブルース・ダーンにしか出来ない。
すっかり色味の退色したモノクロ人生だけど、まかり間違えばこんなオレにも何か残せるかもしれない。結果じゃない。そこに向かうこと、向かっている時間そのものに、あともう一歩だけ生きつづけていく価値がある。
ほら、なんか貰えたじゃないか。〈PRIZE ★ WINNER〉と安っぽく書かれた残念賞のキャップを被り、意気揚々と徐行運転で故郷に凱旋する父。助手席から子供のように見上げる息子の視線が嬉しい。この身の丈の達成感がたまらない。
だいたい100万ドルなんてピンと来ないし。せいぜい中古のピックアップトラックと空気圧縮機を新調すること、あとはそうね、人に20ドル貸しつけるくらいがこの爺さんにとってありったけの使い道だ。
思うに、「モノクロの彩度」がこの男の「身の丈の幅」なんじゃないだろうか。モノクロだって白と黒だけじゃない。黒澤明も言ってたでしょ、灰色にしか見えないグラデーションの間には、赤もあれば緑もある。目を凝らせば色は見えてくる。目を凝らさなきゃ見えないですけどね。