映画『銀の匙 Silver Spoon』レビュー

Another Spoon.

何より作り手の視点にブレが無い。序盤で八軒(中島健人)の高校受験の様を惨いまでに描く。これが八軒の背骨になっていることは間違いない。なので、御影(広瀬アリス)の実家バイトで大ミスするときも、離農する駒場(市川知宏)の実家を見舞うときも、「どうにか彼らと肩を並べたい」という言葉にならない思いがにじみ出る。

錚々たるベテラン役者たちの力加減が絶妙。馴染みのビッグネームが立つことで、観客の「農」へのゲートが開かれる。一方で彼らの演技は決して地を押し出さず、相対する若者たちを鷹揚に迎え入れることで、地に足の着いた印象を醸し出す。

大げさな演技や心の声を多用せず「そばにいる人」の視点でどっしり構えるカメラ。その距離に、観客が各々感じ考える余地を作ろうという意図があるのだろうか。肚のくくりが違う。その一方で「ベーコンの借りを返す」面々が登場するシーンはベタにカッコいい。そんなカードもちゃんと切ってくる。一方、ばんえい競馬のシーンでは、力をためる馬たちの顔の寄りなどもじっくり見たかった。物理的な制約か、演出の方針か。もうほんの少し積んでくれても良かったような。

もっと言えば、原作の多士済々な面々が尖ってハッチャけるシーンをもっと観てみたいと思った。しかしそれを優先すると「農」「迷い」「成長」を伝えることがブレてしまう。コミックは読者それぞれのペースで余韻も込めて読めるが、映画は時間という絶対基準がある。絞り込んだ台詞やシーンの奥に原作で描かれているものを込めようと試みる。映画は集大成的なメディアで、伝える責任もそれなりに大きい。この映画は限られた時間尺の中で、最大限その責任を果たす誠意を見せている。

原作が好きすぎる。なので一本の独立した映画として観れたかどうかは怪しい。けれどしっかり楽しめたことは間違いない。俳優と動物が物語に体温ある「肉体」を与えた。もう一つの「銀の匙」だ。

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銀の匙 Silver Spoonのポスター
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Daisuke O-okaのプロフィール画像

Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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