映画『風立ちぬ』レビュー

Stay Crazy.

飛行機が夢だった。時代が厳しかった。戦争に求められた。恋人が難病だった。たまたま巡りあわせた互いの円の重なりは点ほどに狭い。しかし魂はそこを迷い無く矢のように突き進む。
道はこの足元からしか伸びていない。その道は「負けたことを今一度肝に銘じ、次こそ負けないためにどうするか」を考え抜くことだけから生まれる。二郎の生き様に、自らの未達を他の所為にする抑圧感は全く無い。
二郎は自らへの束縛を最大に生かして自由を獲得する。あれもこれも選択できる自由で無く、自分を究めて狭めた視界の中だけをどこまでも先に突き進む自由だ。滅びを飛び越すパイロットたちは、恨みも無く二郎に敬礼を送る。彼らも空飛ぶ自由を獲得したのだ。
自由の先は、凡ゆる意味での死かもしれない。それでこそその中で生命は輝く。そんな獰猛とも言えるテーマが、柔らかな色彩と光の中に巧妙に隠されている。普通に観れば、戦争時代の秀才技術者の悲恋と人生だ。実はそんな生易しい映画では無い。
反戦。諦念。肯定。様々な捉えられ方を覚悟の上で、全カットに美しさと暖かさを込めながら、ただそこにある生命を描くのみに集中したであろう監督に敬服する。
この映画を社会的・政治的観点で語るのは野暮だ。それはこの映画を投影した自分の心の中でやれば良い。この映画を観て「戦争はいけないと思いました」と書く子供を評価する大人は、衝動を忘れ誰かのイデオロギーに染まった人形なのだ。
この現代に、クレイジーでいろ。他の所為にせず、自分の中だけに衝動を認め受け止めて、純粋に戦え。その中で愛し抜け。この映画は「ただ、そう生きろ」と伝えている。
それが二郎とカプローニが最後に再会するあの平原だ。夢などと表現するには澄み過ぎているほどの地平。気がつくと涙が溢れていた。自分も「そう生きた」とさえ思わせる映像の力。僕はあの地平に立てるだろうか。
立とう。どうにかしてたどり着こう。

10
風立ちぬのポスター
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Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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