映画『箱入り息子の恋』レビュー

容赦ない。

市井監督の初期作「隼」から観ているが、今回の映画でその特性が爆発した。台詞ではなく理屈ではなく、身体感覚を全ての起点にしている。現代のメジャー邦画がどこかお座なりにしてきた要素にしつこいほどに拘り、演技と物語に結び付けている。

健太郎(星野源)と奈緒子(夏帆)の二人。初夏の公園で手を取り合い、共にランチで助け合う微笑ましい触れ合い。健太郎を拒む奈緒子の父(大杉漣)に奈緒子の母(黒木瞳)が繰り出す平手打ちの一閃。叫び、走り、よじ登る健太郎の筋肉の軋み。交歓におよぶ健太郎と奈緒子のあふれ出る情感。全て「身体」。
小さい衝動を丁寧に抑え、大きな衝動に身を載せて疾駆する。

誰もが自分の「箱」を破った瞬間があるはず。その記憶や感覚に響く演技と画作りは、監督や役者が自分自身の人生の引き出しを目いっぱいに開け、経験や感情を掘り起こしてかき集め、勝負している故だと感じる。

初顔合わせのシーンが白眉。自分を一方的に価値無しとする奈緒子の父に対し、一人感情を抑え、丁寧に問いを発する健太郎。両親への感謝、奈緒子への思いを直接台詞に載せず、奈緒子の父と勝負する健太郎に背負わせた演出に拍手。最後の奪還はまさに裸一貫の特攻。いかに健太郎を、本当の意味で「裸にさせるか」に容赦ない。

映画は虚構だ。「あるわけない」という出会いが無いと始まらない。だからこそ徹底して主人公を追い詰め、戦わせ、「あるわけない」という観客の白けた視線を忘れさせる。主人公の魂を掘り下げ、容赦なく「見世物」に仕立て上げる。だからこそ「あるわけない」という出会いが本物になる。

ベースにあるのは人間への丁寧な視線だ。恋を邪魔するライバルもいないし、みなそれほどヒマではない。親も子も、各々が思う相手の幸せのためだけに奮闘している。だから逃げ場はない。

映画が肉体と誠意を備えている。
観ないとヤバい。
観るともっとヤバい。

8
箱入り息子の恋のポスター
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Daisuke O-okaのプロフィール画像

Daisuke O-okaFreak

某メディア企業で取材・出稿を伴うVTRディレクターをやってます。映画製作ビジネスの経験有り。そのうち何かやってやろうとユルく模索中。映画以外では、スノーボードや自転車ほかアウトドア全般、マンガに読書、クルマ、ねこ、これからの社会の動きなど、興味は全方位。よろしくです。

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