映画『渇き(2009)』レビュー

罪と贖罪、暴力と道徳、欲望と赦し、これらを究極の状況に・・・

・・・状況に落し込み、その苦悩と葛藤をユーモアを交えて描く、
ここまでならパク・チャヌクの今までの仕事でも観る事はできた。

しかし本作はソレに加えラブファンタジーまで入ってる大傑作映画だ。

復讐三部作で陰惨な暴力や悲惨な現実の前では
崇高な倫理観も非暴力不服従もまったく役に立たない、
そんな痛々しすぎる究極の葛藤を描き続けてきたパク・チャヌク。

今回も設定は似ているものの、世界観の拡大の技は、まさに神がかり。

小さな罪をも許されない聖職者が
赦されるはずもない殺人を繰り返すヴァンパイアに変身する。
究極の二律背反。背負っているのはソン・ガンホ、さすがだ。

その道徳と欲望の葛藤を一人の女性と共に文字通り濃密に絡め昇華させていく。その昇華のさせ方はまるでディズニー映画のようだ、
その辺りがクムジャさんまでとは決定的に違う所だ。

ボロ雑巾のように扱われ、奴隷のように働かされている女が
ヴァンパイアになるシーンはシンデレラそのもので
ヴァンパイアはそっと、靴を女に履かせる。(ボロボロな靴がまたいい)

その途端、シンデレラは表情もメイクも衣裳も豪華になり
人間離れしたその能力で家々を嬉々として飛び回る躍動感はまるでピーターパンのように活き活きとして殺人吸血を繰り返す。

このシンデレラの青の衣裳は、ポーランドのワイダ、カヴァレロヴィッチと並ぶ巨匠、愛と狂気の両極を描き続け、上映禁止作品も連発したアンジェイ・ズラウスキ監督の「ポゼッション」のイザベル・アジャーニ(トリュフォーの「アデルの恋の物語」←ビクトル・ユーゴーの愛娘の実話、そこでも狂気の愛を見せた。)へのオマージュか?

他には、窓ガラスを叩き割って侵入するオバサン、釣り、蘇る男、麻雀のあがり手、韓国の懐メロ、血の吸い方のバリエーションなど書ききれない・・・この人間離れ感・・・パク・チャヌクこそヴァンパイアだ。

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渇き(2009)のポスター
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小川 勝広のプロフィール画像

小川 勝広

『ブタがいた教室』企画・プロデューサー
『乱暴と待機』プロデューサー
京都造形芸術大学・非常勤講師
東北芸術工科大学・特別講師

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