映画『ヒューゴの不思議な発明』レビュー

マーティン・スコセッシ監督の映画愛に満ちた金字塔的作品

 映画全編が「映画への愛」で充満した作品であり、わが50年の人生の中でも「ゴッドファーザー」と並ぶ生涯のベストワンとなった。特撮映画の父であるジョルジュ・メリエスへオマージュが捧げられた作品だ。現代SFXの最先端である3DやCGIを駆使して「未来への扉」を開け、1930年代のパリ・モンパルナス駅周辺をかなり立体的に造型しているのもものすごく意味深である。しかも映像美は圧巻の一語だ。
 主人公ヒューゴはチャールズ・ディケンズ的人物(だから登場人物はみな英国なまりなのだ)であり、「オリバー・ツイスト」の孤児のオリバー少年同様に冒険の旅に出る。「大人は判ってくれない」のアントワーヌ少年にように映画好きな彼はその冒険の果てに、どん底にいたメリエス監督を“再評価”するきっかけをつくるのだから、なんてすばらしいおとぎ話だろう。もちろんマーティン・スコセッシ監督が「赤い靴」などの名画を毎年保存・修復している<フィルム・ファンデーション>の設立者であることを考えると、「過去への扉」も開ける主人公こそが監督の分身なのは容易に想像がつく。
 オープニングの凱旋門周辺のカーライトの残光をとらえた俯瞰ショット(パリの街が大きな機械仕掛けに見える)からフィルムのひとかけらひとかけらに強度なエモーションが充填されている。しかも驚くことに、「タクシードライバー」で主人公の絶対的孤独を描いたスコセッシ監督は一歩進めてヒューマンな観点に立っている。主人公ヒューゴは駅の時計台でヒロインのイザベルにこう語りかける──「社会は大きな機械仕掛けであり、その機械に無駄な部品は一つもない」と。フェデリコ・フェリーニ監督作品「道」の変奏ともいえる、錆びていたぼくの心にも油が染みわたるような最高のセリフである。このセリフ以後、次々と押し寄せるエモーションの嵐で、ぼくの涙腺が完全に決壊したことはいうまでもない。

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ヒューゴの不思議な発明のポスター
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サトウ ムツオのプロフィール画像

サトウ ムツオFreak

ライター/エディター/ムービーバフ(映画狂)。責任編集のムック『007 Complete Guide ジェームズ・ボンドはお好き?』(マガジンハウス刊、1,500円)が11月30日発売。好きな監督は、クリント・イーストウッド(神)、マーティン・スコセッシ(神)。

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