映画『ビラルの世界』レビュー

力強い生命力

盲目であること自体が途方もないハンディのはずなのに、さらにとんでもなく手のかかる子育てが加わるなんて考えただけで精一杯のはず。それでもビラルの両親は、自分たちの子を迎えることを望んだ。そして彼らの元にやってきたビラル自身も、転んだために脳に障害を持っていると監督は記している。障害を抱える親が、障害を持つ子を育てる。それだけで途方もない苦労があることを察するが、それでも底抜けのパワーでその日その日を暮らすビラルの家族にまず敬服する。
彼ら一家を取り巻く環境は必ずしも明るくはない。周辺の家庭も貧困を抱えていることは一目瞭然だし、それはビラルの家庭も同じ。でもそのことを憂いはしても、決して人の道を外さないように生きる一家が健気だ。
そんな両親の心配をよそに、日々ひたすら自分の興味の赴くままに行動するビラル。どんなに叱られたって平気、へっちゃら。外に出るとビラルに待っている試練をそのまま弟に押しつけてしまうのも、齢の近い同性の兄弟ならではのことだろう。毎日毎日こんなに絶え間なく騒々しくて良く平気だなと思うけど。

両親にとっては「見える世界」と「見えない世界」をつなぐのがビラルだが、「健常者の世界は汚いことが多過ぎるから見たいと思わない」と言い切ったビラルの母の言葉が印象的。見えないことは残念と受け止めるのではなく、逆に心をピュアに保てているパラドックスがある。
そしていつの間にか一過性の壮絶な子育ても終わり、ビラルがきちんと2つの世界を繋ぐ役を果たしていてくれるのが心が温まる。苦労と思うことはほんの小さなこと、生きようとする力の前には苦労はひれ伏していくのだろう。
ただ本作は完全なるドキュメンタリーなので、撮影がどうしても同じ場面になりがち、見せ方が一本調子なのが多少残念ではあった。それでもパワフルなビラルに惹かれて撮影を開始した監督の想いは十分汲み取れる。

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ビラルの世界のポスター
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Kayoko Ichikawa Kawaseのプロフィール画像

Kayoko Ichikawa Kawase

好きな映画はフランス映画、中東映画、ラテン系映画など。
多くのものを吸収できる作品を中心に観賞しています。

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