映画『危険なメソッド』レビュー

クローネンバーグ、新たなる実験

精神が及ぼす肉体の変容をテーマとしてきた鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督が新たな“心理実験”に挑んだ作品だ。

クローネンバーグはクリストファー・ハンプトンによる原作戯曲を驚くほど正攻法に映画化している。
連想される言葉、暗示に満ちた夢を語る言葉、性的快楽を語る言葉…これまでのような突飛なイメージ映像もグロテスクなメタモルフォーゼもなく、飛び交う言葉がやがて行為へと変容していく様を俳優の演技本位で描いている。ゆえに禁欲的な演出の水面下で、従来のテーマがうごめく。この抑制こそ当時の抑圧の風潮であり、ゆえにヒステリーという病気は生まれ、精神医学が発達したのだ。

俳優陣の確かな演技がクローネンバーグの実験を支えた。
3度目のタッグとなるヴィゴ・モーテンセンはフロイトの世捨人のような風情が個性にピタリとハマった。ヴァンサン・カッセルは短いシーンで落伍医者を怪演。そしてキーラ・ナイトレイがヒステリックでハードな役柄を熱演している。

抑圧された精神の時代はやがてナチスドイツによる暗黒時代を迎える。この台頭を予見した終幕の展開はユングの“元型”を知らないとわかりづらいし、やや難解だ。
聞けば新作「コズモポリス」も“言葉”に執着した作品だという。クローネンバーグは精神が行為となり、その行為が歴史を動かす様を描こうとしているのではないか。実験は続く。

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危険なメソッドのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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