映画『少年は残酷な弓を射る』レビュー

僕たちはケヴィンについて話し合わなくてはいけない

多面的な見方の出来る恐ろしいスリラーだ。見る者の性別、年齢、立場によって感想がまるで違ってくるだろう。僕は初め、これは子育てストレスについてのホラー映画だと思った。もちろん、その要素は強いのだが「ダークナイトライジング」の上映劇場で起きた銃乱射事件の直後に観たせいか、これは到底理解できない社会の歪みを僕らがいかに無視しているかについての映画ではと思えた。

なぜならばこの映画には“結果”しか描かれておらず、経過は事件を起こす少年ケヴィンの母エヴァの一人称でしか綴られていないからだ。ケヴィンは産まれた時から母親になつかず、成長してからもとても反抗というには気味が悪すぎる程の悪意を持って反発し続けてきた悪魔の子として描かれている。全てを失い、絶望したエヴァの回想として進行する本作はそんな彼女の世間への“言い訳”を繰り返し描写していくのだ。ディテールの積み重ねから浮かび上がるのは犯人の異常性や、家族の機能不全といった世間が書き立てる的を得ない指摘と同じではないか。原題は“We need talk about Kevin"。僕らは決して問題について話し合っていなかったのだ。

母親役にはティルダ・スウィントン。ただでさえ細身であったのにさらに体型を絞り込み、終始無言で絶望を体現する彼女の演技には身動きする事すらためらわされてしまう。ケヴィンを怖れ、憎みながらも自身の血肉から生み出した愛情を捨て切れない根の深さを見せた。
ケヴィン役には新星エズラ・ミラー。あまりにも妖しすぎる容姿は異形のティルダと並ぶと母子と言うには危険な背徳感すら漂う。

「モーヴァン」以来の監督作となるリン・ラムジーは独特のセンスで異色のサスペンスに仕上げ、実力を実証した。

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少年は残酷な弓を射るのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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