映画『インセプション』レビュー

永遠なる回帰

他人の夢の中に入り込み、深層心理の中から機密情報を抜き取るという何とも奇怪なプロットで、しかも主人公は逆に深層心理に別のアイデアを植え付けるというミッションを帯びる。「マトリックス」meets「スパイ大作戦」(でもノーランはどちらかと言うと「007」を意識しているアクション演出だが)といったプロットだが、ルール説明に前半30分を要する事からもここまで難解にする必要があったのかという疑問が湧く。「ダークナイト」ではヒース・レジャーがブチ破っていたノーラン映画特有の理詰めの息苦しさが付き纏うのだ。

そう、夢を描くには圧倒的に華、色気に乏しいのが惜しい。前半のルール説明でパリが舞台になる事からもフランス映画(「去年、マリエンバードで」がよぎる)へのオマージュも何となく伺え、絶好調のフランス女優マリオン・コティヤールに夢とうつつの橋渡しをさせてはいるが、残念ながらどのシーンにも酔わせてくれるような夢の幻惑性は感じられなかった。

一方でノーラン監督ならではのテーマがドラマの強度を支えている。ディカプリオとコティヤールの夫婦が持つ怨念の背景には、そもそも現実から逃避し、仮想空間に没頭せざるを得ない暗く冷たい心の空洞があったのではないか。ディカプリオの近作「レボリューショナリー・ロード」「シャッター・アイランド」の映画的記憶も夢の階層のどこかに刻まれている(ディカプリオの演技プランが3作共通しているのが面白い)。

僕はラストシーンでデヴィッド・リンチ監督の「マルホランドドライブ」を思い出した。ミステリアスで、冒険と愛に満ちた“あっち”に行って帰ってこれなくなる映画だ。それは「メメント」で糸の切れた凧のように記憶の迷宮を漂い続けるガイ・ピアースを思い起こさせ、そして本作のディカプリオにつながる。僕にはあのコマが止まったとは、やはり思えないのだ。

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インセプションのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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