映画『127時間』レビュー

血をほふり、肉を断て

実在の登山家アーロン・ラルストンが巨岩に腕を挟まれ、最後には自らその腕を切断して生還する驚異的な実話を映画化したダニー・ボイル監督作。アカデミー賞では6部門にノミネートされたパワフルな1本だ。

ランニングタイムはわずか94分。タイトルが出るまでの10分弱でまず主人公の人となりが紹介される。屈託のない笑顔でジェームズ・フランコがチャーミングに演じるラルストンは週末を一人、峡谷で過ごす孤独を渇望する典型的な現代人だ。人懐っこくて明るいが、どこか世捨て人のようで本心を明かしてはくれない。そんな彼がクライミング中に崩落した岩に右腕を挟まれてしまう。誰にも行き先は告げてこなかった。岩はいかなる知恵を絞ってもピクリともしない。そしてここは声の届かない無人の荒野だ。

全編、巨岩とジェームズ・フランコのみ。ダニー・ボイルはそんなチャレンジを軽々と飛び越えていく。様々なカメラでラルストンの奮闘をドキュメントタッチに追う事はもちろん、彼はラルストンの葛藤という心理面をそのまま映像にして映画の地平へと舞い上がる。妄想、願望、希望、絶望がミキシングされた高揚感は僕らが「トレインスポッティング」や「スラムドッグ・ミリオネア」で見てきたそれだ。変幻自在の編集と、前作から登板するA・R・ラフマーンの大地と生命の力強いビートがやがて僕らを、ラルストンを何が何でも生きるんだという命への渇望に追いやる。ポップな映像表現と息詰まる肉体の痛みを同居させ、腕の切断というショッキングなハイライトまで導くボイルの演出はオスカー受賞作以上に完成されている。

巨岩に“ありがとう”と告げたラルストンは助けを求めて荒野を歩く。泥水をすすり、失血と脱水で朦朧としながら彼が求める力いっぱいの“Help"。人の体に血は巡り、肉を成す。獰猛なまでの生命力に心が震えた。

8
127時間のポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1
長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

映画『127時間』に対する長内那由多さんのレビューにコメントする

こんな作品もレビューされてます

僕はイエス様が嫌いのポスター

また逢う日まで

  思いもよらぬ事件や事故に胸を痛めるにつけ、こんな世の中...

名探偵ピカチュウのポスター

ピカぴぃ・・ピカピカ

 ピカピい・・ピイカピカ 通じてますか? ケンワタ...