映画『ファミリー・ツリー』レビュー

浮きもしないし、沈みもしない雲

クライマックスのこの“わびさび”は日本映画の読後ではないか。
ジョージ・クルーニーは妻がボート事故で昏睡状態に陥ったのを機に、人生のあらゆる局面と向き合わざるをえなくなる。仕事にかまけて希薄になってしまった娘たちとの関係、すでに破たんしていた夫婦の絆、そして先祖から代々受け継いできた母なるハワイの大地の所有権だ。そのどれもが決して万事めでたく解決する事はないが、彼の人生において確実に何らかの変化をもたらしていく。家族で何とはなしに一緒にテレビを見る幸せ…そんなさり気なさ、人生の曖昧さに価値を見いだしたアメリカ映画など極めて稀ではないだろうか。

「アバウト・シュミット」「サイドウェイ」といった名作群によって人生の機微を描いてきたアレクサンダー・ペイン監督の洞察力はいよいよ円熟の境地に達している。特に主人公のみならず脇役に至るまで人生のグレーゾーンを描写したさり気なさにはハッとさせられた。ひたすら辛く当たってきた舅が娘へ抱く深い愛情。浮気されていたと知った妻の哀しみ(ジュディ・グリアが場をさらう)。それらが決して重苦しくならず、人間の機微へ目を細めたヒューマニズムとして描かれ、可笑しさがこみ上げてくるのが愛おしい。

ジョージ・クルーニーはキャリアベストの名演技。スターオーラを消し去り、加齢臭まで漂ってきそうなフツーのオッサンをユーモラスに、哀愁をこめて演じている。特に妻の不倫を知るやつっかけでバタバタと猛ダッシュするドン臭さと言ったら!

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ファミリー・ツリーのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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