映画『別離』レビュー

神の厳粛さ

一組の夫婦の離婚協議を通して万国普遍の“摩擦”が描かれていくアカデミー外国語映画賞受賞作。それは男と女の違いであり、文化の違いであり、上流と下流の違いである。国を問わず裁判沙汰がいかに神経をすり減らし、人と人との関係に軋轢をもたらすのか。アスガー・ファルハディ監督自らの手による緻密な脚本、揺るぎない話法には見る者をクタクタに消耗させる力がある(もう限界!と叫び出しそうになってしまう瞬間に突発したギャグが和む。これがヒューマニズムだ)。

どの国の誰が見ても共感できる作品だが、クライマックスにはこれはイランでしか生まれなかったのだと気付いた。
一般良識のある人なら誰もが関わり合いになりたくないと思えてしまう原告側の夫。暴言を吐き散らし、あろうことか子供にまで手をあげかねない彼が事の真相を知った時の絶望の深さ。
それは嘘を付く事が何物にも代え難いほどの重罪を意味するイスラムのならではの厳しい罪の意識であり、美しさなのである。気の毒なほどに打ちひしがれ、ひたすら自分を罰した彼がその後に取った行動は明確に描かれない。だが、イスラムを信仰する者であればその結果は自明の理なのであろう。

悲痛なエンドロール。夫妻が苦しんでいるのは離婚が原因ではない。彼らはイスラムの戒律を犯したから苦しんでいるのだ。

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別離のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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