映画『雪の華』レビュー

百万円の恋

 出演作が相次ぐ逸材ながら、浮世離れしたスケール豊かな容貌を、いささか持て余してきた感もある中条あやみ。ナチュラルな関西弁に外見と中身との落差をチャーミングに忍ばせた『セトウツミ』(16)、コメディの名手・英勉監督と組み新たな魅力が開花した『3D彼女 リアルガール』(18)などを経て、代表作となり得るラブストーリーとめぐり逢った。

 かのオードリー・ヘプバーンも、非凡な容姿と裏腹の親しみやすさで同性をも魅了したが、『orange‐オレンジ‐』(15)、『羊と鋼の森』(18)と良作を連発する橋本光二郎監督と、演者の特質を存分に活かす人物造形に秀でた名脚本家・岡田惠和のコンビは、伏し目がちな眼鏡っ子役を中条に振り、“高嶺の花”感を封印。幼少より病弱ゆえ多くのことを諦め、遂には余命まで宣告され絶望に陥る主人公は、愛読書の少女漫画から抜け出たような不良っぽく見えて心優しき青年(登坂広臣、全力疾走も画になる好演)に遭遇し、“百万円で1か月恋人になる”と唐突な提案をする。ややもすると打算的で品なく映りかねないヒロイン像であるが、丸レンズ越しのまっすぐな瞳に、当人には真剣そのものの気迫と説得力が宿る。死を覚悟することで自身の殻を次々と打ち破り、ひととしても恋する女性としても凛々しく美しく変貌する軌跡を、中条は天然っぽいコミカルさも失わぬまま繊細に演じきる。
 
 中島美嘉の言わずと知れた同名曲をモチーフにしつつ、その世界観に引っ張られすぎてもいない。エリック・ロメールの『緑の光線』(85)ならぬ、“赤のオーロラ”を象徴的に用い、ロケを敢行した極寒のフィンランドには、過酷な自然のもつ厳粛な美とともに、希望を託す温もりのようなものさえ漂う。

 終わりから、始まる恋。胸に仕舞い込みがちな想いを、声に出して伝える力を、別れが近づくほどに惹かれ合うふたりが、切なくもまぶしく体現している。

8
雪の華のポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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