映画『ヘレディタリー 継承』レビュー

血縁という名の呪い

古今東西、ホラー映画は異性、セックス、出産、子育て、ネグレクト等々あらゆる恐怖のメタファーとなってきた。本作のそれはズバリ“家族であること”だ。逃れようのない血縁という呪いに悩まされた事がある人にはこの映画のもたらすストレスは耐え難いものかも知れない。そんな不和がなかったとしても新鋭アリ・アスター監督の洗練された演出によって神経衰弱ぎりぎりの恐怖を味わわされる事は必至だ。不穏なコリン・ステットソンの前衛的スコアを背に、ミヒャエル・ハネケの冷徹さとロマン・ポランスキーの厭世、強迫観念を併せ持ったかのようなアスターの演出力は並外れている。

『ヘレディタリー』はぜひ一切の事前情報を断って見てもらいたい。前半約20分地点で起きるショックをきっかけに映画は全く先の読めない奈落へと転がり出す。アスター監督はこけおどしの恐怖演出を徹底排除し、俳優のリアクションを重視した演出で観客の想像力を煽って恐怖感を高めている。それに応えて俳優陣は皆、素晴らしい演技だ。コレットの神経症演技はいわゆるジャンル映画の域を超えた名演。アン・ダウドが手練れた怪演を見せるおせっかいな隣人ジョーンが出てくれば、僕らの脳裏にはポランスキーの初期傑作『ローズマリーの赤ちゃん』がよぎり…これくらいにしておこう。昨年、同じくA24からデビューした『ウィッチ』ロバート・エガース監督同様、アスターも抜群に耳が良く、右後方から聞こえてくる“ある音”には身の毛がよだった。この抜群の音響設定はぜひとも劇場で確かめてもらいたい。

興味深い事に本作はアスター監督の身に起きたある実体験が基になっているという。劇中、アニーが行うミニチュア作りの“箱庭療法”は本作撮影と同義だったのかも知れない。そんな視点から見るとしがらみから解放されたかのようなラストシーンにはハッピーエンドとも思える祝祭感があった。

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ヘレディタリー 継承のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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