映画『クワイエット・プレイス』レビュー

声をあげよ

『クワイエット・プレイス』は全編に渡って集中力の漲った素晴らしいホラーであり、足し引きの計算されたクラシンスキーの演出は新人ばなれしている。主人公一家の父親に扮したクラシンスキー自身のパフォーマンスもパワフルで感動的だ。今後、ベン・アフレックに続く俳優監督としてより評価を高めていくだろう。

物語は異常な聴力で人間を襲うクリーチャーによって人類のほとんどが死滅し、荒廃した世界でサバイバルを続ける一組の家族を描いている。両親と3人の子供たち。彼らは音を立てないよう素足で行動し、息をひそめ、会話は手話だ。95分の上映時間中、発する言葉はほんのわずかである。

これまでの優れたホラー映画同様、『クワイエット・プレイス』における恐怖もメタファーだ。冒頭、ある事件によって心に傷を負った一家の断絶を描くための無言であり、その責任を感じ続ける長女にいたっては聾者である。そしてこの生きていくのもままならない世界で夫妻は間もなく新しい生命を迎えようとしている。トランプ政権発足後、社会不安を反映したホラーが次々と生まれるのではと『ゲット・アウト』の項でも触れたが、本作の恐怖もまたこの不安に満ちた世界で子供を産み、育て、果たして生きていけるのかという葛藤に見出されている。未だギーガーを超えられないクリーチャーに恐怖の本質はなく、むしろ家族ドラマの読後に近い。妻役エミリー・ブラント(実生活でもクラシンスキーの妻である)が素晴らしいのは言わずもがなだが、とりわけ我が子を守る決意を訴えた力強い演技は僕らの心を揺さぶり、それを受けたクラシンスキーも触発されたかのような名演である。

牧歌的な田園風景が一転、恐怖の一夜が始まったことを告げる一面の赤いランプの鮮烈さ。そして怒りと生命の雄叫びを上げるクラシンスキー。目の離せない1本である。

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クワイエット・プレイスのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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