映画『ウインド・リバー』レビュー

そこは息をするのも許されない土地

気鋭脚本家テイラー・シェリダン、待望の監督デビュー作だ。前2作同様、サスペンスアクションの形を取りながら今回も辺境からアメリカを射抜いている。『ボーダーライン』ではメキシコ国境を舞台にアメリカの凶暴な対外政策の実態を炙り出し、『最後の追跡』ではリーマンショック後、取り残された下層の苦しみを描いた。
九州ほどの土地に点在するしか人が住んでいない先住民保留区“ウインド・リバー”。そこで頻発する失踪事件の真相からは先住民族を閉じ込め、搾取し続けてきた白人たちの横暴が垣間見える。それは地方の特異性に留まらず、現在のアメリカが抱えた“分断”の縮図に他ならない。

本作にはシェリダンの“怒り”が色濃い。息をするのもままならない厳寒の地へと追いやられた先住民族たち、そして弄ばれた女たちの怒り。それらを代弁するのがジェレミー・レナーだ。インテリジェンスを感じさせる寡黙さの中に怒りを秘めたレナーは息をするだけで肺を凍らせ、命を奪うウインド・リバーの厳しい大自然そのものだ。個性派俳優として頭角を現した『ハートロッカー』『ザ・タウン』の狂気的なアクがヌケ、マーヴェルのスーパーヒーローを通過して本作ではこれまでになかった“優しさ”に到達している。演じるコリーは先住民族の女と結婚し、彼らに認められた劇中唯一の白人だ。この融和性こそ本作におけるレナーの新境地である。

本作の製作には昨年、レイプ事件によってハリウッドを震撼させたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが携わっている。かつて90年代にクエンティン・タランティーノを発掘し、インディーズ映画旋風を牽引した大物だ。本作でも多くの人気監督、スターを輩出した慧眼に狂いのない仕事ぶりだが、レイプ魔に鉄槌の下る本作を果たしてどのような気持ちで見たのか。天才監督の登場と大物プロデューサーの退場、期せずして重要な転換点となった1作である。

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ウインド・リバーのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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