映画『ボヘミアン・ラプソディ』レビュー

クイーンのすべて

 ブライアン・シンガー監督が、フレディ・マーキュリーを撮る。今なお数々のミュージシャンに多大な影響を与える亡きカリスマの光と影を、芸能界の闇へと分け入り、ねっとりと照射する作品かと思いきや、その想像は爽快に裏切られる。

 当初主演を務める予定だったサシャ・バロン・コーエンから、小動物のような愛くるしいギョロ目のラミ・マレックにバトンタッチされたことで、唯一無二のエンターテイナーとして大勢の前でオーラを放ち続ける裏側で、懸命に自身を鼓舞し続けるフレディの人となりが際立つ。複雑な出自や特徴的な歯並びなどのコンプレックスと格闘しつつ、ずば抜けた歌声を武器に、自ら命名したバンド“クイーン”での活動を通し、なりたかった理想像を実現させる彼の短くも濃密な半生が、パワフルに綴られていく。

 人気絶頂の傍ら、真偽入り混じる醜聞の果てにバンド内でも孤立を深め、裏切りともとれる選択をし迷走するフレディの苦悶の日々も描かれるが、本作の主眼はそこにはない。創立メンバーのブライアン・メイとロジャー・テイラーの全面協力も得て、フレディを今も大切に想う“家族”たちの脳裏に刻まれた生前の彼の姿―とりわけ、劇的な出逢いを経て、恋愛関係が破綻した後も、魂の伴侶として強く結ばれ続けた運命の女性との関わり合いから覗く、脆く繊細な一面が印象的に映し出される。わだかまりを解消し、錚々たる顔ぶれが一堂に会する世紀のイベントに臨むクイーン。その圧巻のステージの渦に、彼らの紆余曲折を見守ってきた観客も、85年当時の熱狂を見事に再現した米粒大の聴衆とともに呑み込まれ、メンバーの喜びや痛みが昇華された名曲が、個々の心身にビンビンと染みわたる。

 “クイーン公認”な趣のポジティブな仕上がりに、フレディ当人は草葉の陰で照れ笑いしているかもしれないが、時代を超えて愛される伝説のバンドの偉大さを再認識させてくれる佳篇であった。

8
ボヘミアン・ラプソディのポスター
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1
服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』に対する服部香穂里さんのレビューにコメントする

こんな作品もレビューされてます

クレイジー・リッチ!のポスター

アジア版『ブラックパンサー』

 大旋風である。ワーナーブラザーズの製作ながらオールアジア...

クワイエット・プレイスのポスター

声をあげよ

 『クワイエット・プレイス』は全編に渡って集中力の漲った素...

インクレディブル・ファミリーのポスター

オンリーワンで、スーパーワン

 映画は2004年の第1作目直後から始まるのに少しも古びていな...