映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』レビュー

脱・ひとりぼっちの青春

 ひとは生まれながらに平等である……わけもない。それゆえ、ないものねだりの欲求が新しい何かを生み、理不尽なこの世界の壁をぶち壊す活力を育んでもきたのだろう。

 アジア各国で、タイ映画史上最高興収を叩き出した本作のヒロイン・リンも、父が教員の質素な家庭に育つも、類稀な頭脳で名門校に奨学生として転入する。ひょんなことから、勉強嫌いだがアイディアマンの裕福なカップルの誘いに乗り、大胆不敵なカンニングの手法を考案し、殺到する学生顧客から正答と引き換えに代価を受け取るビジネスに手を染める。さらには、米国留学への足掛かりとなる国際的規模の大学統一入試を舞台に、壮大なプロジェクトを成功させるべく、母想いの超生真面目男子苦学生・バンクをも、半ば強引に仲間に引き入れる。

 自身に限れば難なく入試をパスできる秀才までもが、何故かくもリスキーな行為に身を投じたのか。高額報酬はもちろん、誰かに必要とされ、共通の目標に向け邁進することで味わえるスリリングな一体感や高揚感も、とびきりの魅力だったに違いない。周囲がみな敵と化す、さもしく孤独な受験戦争の渦中で、スクールカースト的には並び得ない二組の男女が、互いの強みを活かし合い、醜悪さをはらむ強大な何かをも出し抜こうと勝負を打つ。その関係が “友情”とは異なる“共犯”であるとしても、ともに輝ける未来を夢見た同志たちを待ち受ける光景には、複雑に入り混じる感情が込み上げ、胸が締めつけられそうになる。

 CMやMVでも活躍するナタウット・プーンピリヤ監督は、中国の実際の事件を下敷きにしつつも、マークシートの解答を一斉に大勢の生徒と共有する驚異のテクニックなどを、計算し尽くしたカットを重ね華麗に映像化し、事の全貌をギリギリまで掴ませぬ巧みな構成で、観る者を前のめりに引き込み続ける。矛盾だらけな社会への鋭い洞察も光る、タイ発の一級エンターテインメントである。

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バッド・ジーニアス 危険な天才たちのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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