映画『運命は踊る』レビュー

この道は・・・

 すがっては裏切られてきた神は信じないけれど、運命は心のどこかで信じている。不意に訪れたよいことも悪いことも、浮かれず嘆かず、受け止めきれるように。

 突然飛び込む、息子の戦死の知らせ。情の濃い妻は卒倒するが、一家の長として虚勢も張ってきた夫は、悲しみを素直に表現できない。葬儀の準備などが進む中、息子の訃報は誤りだったと判明するが、同姓同名の別人の死を無邪気に喜ぶ妻を横目に、自分でも驚くほどの動揺を抱え込む夫は感情を暴発させ、軍の役人に息子の即時帰還を要求する。そんな事情を知る由もない息子は、戦場とはいえ淡々とした時間が流れる検問所でいつもの任務にあたるが、ある若者の一団を乗せた車の通行をめぐり、予期せぬ悲劇が起こる。
 
 鮮烈な長篇デビュー作『レバノン』(09)では、戦車の小さなスコープ越しに戦場の実態をリアルに体感させた、イスラエルの気鋭監督サミュエル・マオズ。8年ぶりの本作では、俯瞰のショットを多用し、人知を超えた存在の視点から、ある出来事がもたらす波紋のひだ一枚一枚にクローズアップしていく。そこでは、アウシュビッツを生き抜いた夫の母も、理不尽な暴力に耐えつつ飼い主に一途なまなざしを向ける愛犬も、検問所を悠然と闊歩するラクダも、すべてが不可分で同等であり、互いに及ぼし合う影響から逃れることはできない。原題の“フォックストロット”のステップが示唆するように、ひとは、自分の意志で選び取った道を、少しずつでも前に進んでいるつもりでも、実際は、得体の知れない何かの計らいによって、同じところをグルグル回り続けているだけなのかもしれない。

 夫の想い、妻の想い、不在時にも両親の愛情を独占する弟の影で、寂しげな娘の想い。断片的だったそれらが見事に収束されるエンディングを、ペルト作曲の《鏡の中の鏡》が引き継ぎ、悲痛さに温かなものさえ込み上げる名篇を、余韻深く締めくくっている。

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運命は踊るのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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