映画『君の膵臓をたべたい』レビュー

君が君であるために

 この作品が、このタイトルでなければ、これだけヒットしていただろうか。それほど衝撃的かつ印象的な、“君の膵臓をたべたい”との一文に秘められた並々ならぬ想いを、わずかな余命を全力で駆け抜けた女子高生と、思いがけず彼女の“晩年”に深く関わることになる寡黙な読書男子とのふれ合いを通し、ミステリー的要素も加えて紐解く、同名ベストセラーに基づく劇場版アニメーションである。

 昨年公開された実写版は、12年後の現在から回想する形式をとることで、映画ならではの独自色を打ち出し大ヒットしたが、本質的な主題は異なるものの、いわゆる難病ものの枠で比較されがちな『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)と、結果的に肌合いが似てしまう部分もあった。原作者の住野よる自身も脚本づくりに参加したという本作では、何もかも正反対に見える男女が、お互いを尊重し“君”と呼び合ううちに、友情や愛情という言葉を超越した、それまでの、そして、それからの人生にとってもかけがえのない存在へと変貌する軌跡を、ふたりの運命的な出逢いから不意に訪れる別れ+αの日々に絞り、より凝縮した形で濃密に描き出す。

 本だけが友だちの、掴みどころのない難役でもある“僕”を演じるのは、コミックの実写化ラッシュの渦中で、浮世離れしたキャラクターをも飄々とモノにしてきた、声優初挑戦となる高杉真宙。時に身勝手に映るほど生に前向きな少女の最後のパートナーに任命され、渋々ながら外の世界へと踏み出す中で湧き起こる感情のうねりを、声のトーンや抑揚のニュアンスで繊細に表現し、露出度高めの服装で色気を振りまくヒロインの肉感的な造形と相まって、二次元のアニメーションにも、血の通ったリアリティーを吹き込む。

 観る者それぞれが、名無しの主人公に自己を重ねつつ、どこかにきっといる、大切な“君”を思い浮かべて胸が締めつけられる、そんな切ない青春映画であった。

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君の膵臓をたべたいのポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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