映画『万引き家族』レビュー

社会を覆う空気

カンヌは常連監督が傑作よりも佳作でパルムドールを獲ってしまう“年功序列”がしばしば起きる場であり、本作の受賞も多分にその感が強い。だが、同時に“時勢”も大いに影響する賞である。皮肉にも是枝監督は本作へ寄せられたバッシングに象徴されるこの世の不寛容さ、排外主義の空気を的確に捉えている。ゆえのパルムドール受賞だろう。

ワーキングプアを描くには作意が過ぎるきらいもある。特に父と母、息子の関係はここまで複雑にする必要があったのか。妹のサブプロットも機能しておらず、常連客に心を許す下りは監督が松岡茉優に惚れ込んでるとはいえ、やり過ぎだろう。果たしてこんなに盛り込む必要があったのか。

一方で是枝らしくディテールのリアリズムは徹底されている。一家の住居は低所得者の典型とも言えるゴミ屋敷で、食事は毎食カップラーメンだ。一家のコスト意識、モラルについ苛立ってしまうのだが、映画はそんな僕の寛容さも試している。ほぼ同時期に公開された『フロリダ・プロジェクト』は全く同じテーマを扱っており、偶然にもラストシーンは全く同じだ。両者の決定的な違いはワーキングプアの集う『フロリダ~』のモーテルには互助精神があり、管理人ウィレム・デフォーは何とか枠組みの中でセーフティネットになろうと奮闘しているが、本作にはそんな存在が一人も出てこない。行政もなければ友人もおらず、何より僕らは近所付き合いというものが無くなって久しい事を身をもって知っている。この断絶、孤立した絶望感こそ弱者を徹底的に叩く我が国の姿そのものではないだろうか。

この国を覆う空気を知らしめるためなら過ぎた作劇もやむを得まい。是枝は安易な着地を目指さず、子供達へ何を手渡すべきなのか真摯に考え、観客に突きつける。若さ漲るショーン・ベイカーと対照的なその筆致は、まさに名匠の風格だ。

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万引き家族のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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