映画『ラブレス』レビュー

“貧しさ”への怒り

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督作はヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞した『父、帰る』以来の鑑賞だが、本作『ラブレス』を見ると処女作にして既に作風が完成された名匠である事がわかる。静謐だが、どこか不穏さを抱えたカメラ。そして『父、帰る』で地中から掘り起こされた謎の小箱のように、映画の中心に存在するマクガフィン。今回の『ラブレス』では息子の“不在”がそれだ。

ロシア。ある家族が離散の時を迎えようとしていた。父も母も既に他所で新しい家族を作っており、幼い息子に居場所はない。愛されていない事を知った息子が人知れず嗚咽する場面は本作で最も心痛む場面だ。程なくして息子は姿を消す。

家出なのか。それとも何か事件に巻き込まれたのか。大規模な捜索隊が組まれ、探せども息子は見つからない。その間も両親は愛人宅に耽り、自分しか愛せない貧しさを露呈する。とりわけスマホが手放せず、自撮りに余念がない母親には監督の憎しみすら感じる。

『ラブレス』の怒りの正体が明らかになるのは映画の最後だ。夫婦が横目で見るTVニュースはロシアによるウクライナ侵攻を報じている。この映画はロシア・プーチン政権はもちろんのこと、あらゆる独裁を黙認する我々の無関心さを告発しているのだ。

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ラブレスのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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