映画『犬ヶ島』レビュー

ウェス・アンダーソン、さらなるステージへ

近未来の日本。メガ崎市では犬インフルエンザが蔓延、人への感染を恐れた行政はゴミで埋め立てられた離島へ全ての犬を送り、殺処分とした。主人公アタリ少年は愛犬スポッツを探してこの“犬ヶ島”にやってくるのだが…。

オフビートなユーモア、アレクサンドル・デスプラが好投するすっとんきょうなスコア、そして細部までこだわり抜かれた美術という“アンダーソン印”はもちろん、とりわけ画面いっぱいにあふれる独自のジャパニーズフューチャーや、犬は英語、人間は日本語を喋るという奇妙な映画世界が楽しい。ボイスキャストには“アンダーソン組”の常連から特に美声の俳優が召集されており、ブライアン・クランストン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ボブ・バラバンらデコボコ5匹組のやり取りはこの豪華面子を思い浮かべるだけで可笑しくてしょうがない。さらにはナレーションに『アメリカン・クライム・ストーリー』のコートニー・B・ヴァンス、ヒロイン犬にスカーレット・ヨハンソンと低音域のキャスティングが徹底されており、アンダーソンの耳の良さも楽しめた。

そして今のアンダーソンにはパペットアニメが余技に終わらない、作家としてのスケール感が備わりつつある。前作『グランド・ブダペスト・ホテル』ではファシズムによって奪われた旧き良きヨーロッパへの憧憬が映画に奥行を与えていたが、本作でも彼は“同時代性”を見失っていない。メガ崎市は犬も喰わぬ汚職に染まり、メディアと政治家の扇動によって犬に対する排外主義が跋扈しているのだ。しかし少年と忠犬だけは(英語と日本語という言葉の壁すら超えて)厚い友情で結ばれている。この箱庭は一見ファンタジーのようでいて今の日本はじめ、世界そのものが映されているのだ。ウェス・アンダーソン、さらなるステージに立った。

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犬ヶ島のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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