映画『猫は抱くもの』レビュー

そして猫になる

 独立心旺盛な猫は、自分がひとよりも劣っているなんて考えもしないだろう。本作に登場するロシアンブルーの“良男”も、男前に名付けてくれた沙織(沢尻エリカ)に溺愛され、我こそが彼女の恋人だと信じて疑わない。映画版を凌ぐ名作だったTV版「グーグーだって猫である」(14、16)を手掛けた犬童一心監督&脚本家・高田亮コンビは、そんな猫の切ない思い込みと孤独な女性の妄想とを、どこか浮世離れした吉沢亮に託し具現化。傑作ミュージカル「100万回生きたねこ」(13)の森山未來の圧巻の猫っぷりに続けとばかりに、しなやかな身体表現で“半人半猫”を妙演する。

 ひとと猫とを隔てる何かが、互いの本心を程よくスルーさせ、デリケートな均衡を保ち成立していた両者の“相思相愛”関係も、沙織に男性の影がちらつき、こっぴどい仕打ちに遭ったせいで、変化を強いられることになる。

 元アイドルグループの一員でもあった沙織に、さらなる試練が襲い、某TV局からの一夜限りの再結成話に、迷いながらも了承してしまう。それまでの、シンプルなセットを駆使した舞台劇風のメルヘンチックな展開から一転、懐かしのアイドルが集結するバラエティ番組の、異様なまでにリアルな作り。儚い過去の栄光から逃避し続ける一方、未だ歌手への道を諦めきれない夢見がちな彼女の、最後の希望を打ち砕くべく突きつけられる現実の象徴として、おぞましいインパクトを放つ。芸能界の暗部をも、身をもって経験してきた沢尻嬢だからこそ体現し得る苦悩は、彼女のキャリア史上最も切実な痛みを伴い、胸に迫りくる。

 どん底にあえぐ愛しい人を、抱きしめてやることも、優しい言葉で励ますことすらもできない良男は、自分が彼女にとっての理想の男ではなく、ひととは違うアプローチで幸せをもたらし得る、猫である事実を受け入れていく。タイトルの意味がやるせなく染み入る、ユニークな趣のメロドラマである。

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猫は抱くもののポスター
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服部香穂里のプロフィール画像

服部香穂里

映画界の末端で、浮草のように漂うております……。

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