映画『ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた』レビュー

Stronger

2017年もアメリカ映画は実話モノが相次いだが、意図せずして呼応し合っているのが面白い。アメリカのロールモデルになれなかった事から転落していく『アイ、トーニャ』とボストンマラソン爆破テロ事件で両足を失ったジェフ・ボーマンを描く本作だ。事件直前、ジェフは犯人を目撃しており、彼の証言が逮捕につながった事で世間から不屈の英雄として注目を集めていく。

だが、実際のジェフはヒーローとは程遠い男だ。30歳を前にして母親と実家で2人暮らし。カノジョとのデートの待ち合わせ時間も守れない出不精で、バイト先のスーパーでは惣菜コーナーすらままならない。御多分にもれずレッドソックスの大ファンであり、試合当日はバーで酒にまみれている。

英雄視される事の重圧を描いた諸作はアメリカ的価値観、英雄像が正しいのかという自問だ。「アメリカをかつてのように偉大にする」とのたまう大統領が現れたが、果たしてアメリカが良かった事などあったろうか?『アイ、トーニャ』同様、ここには範となるべき父の姿はなく、母は理想像から程遠い。

そんなアメリカの戸惑いの中で、いずれの主人公もしぶとく生きる。
実録難病モノの定型を避けようとする監督デヴィッド・ゴードン・グリーンと製作、主演ジェイク・ギレンホールが賢明だ。感傷を排し、ディテールに目を凝らす演出は目新しい場面が多い。

とりわけ印象深いのは失われた膝下を直視できないジェフの視線を恋人エリンが覗き込む場面だ。いくらでも熱演し、オスカーを目指せる題材でジェイク・ギレンホールは実に慎み深く、演技的見せ場のほとんどをエリン役タチアナ・マスラニーに譲っている。彼女の真心のこもった演技はエリンという人の迷いや優しさを体現し、僕たちもまたその視線に吸い込まれる。ジェフを救ったのはエリンであり、アメリカを救うのは人の優しさであると謳う本作の心根に魅了された。アメリカは映画は強い。

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ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれたのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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