映画『君の名前で僕を呼んで』レビュー

ふたりのエリオ、ふたりのオリヴァー

多感な、それこそ17歳の時にこの映画を観ていたら人生が変わっていたかも知れない。
ティモシー・シャラメ演じるエリオの表情を撮らえた3分30秒のエンドロール。その顔には愛を失った哀しみがあり、はらりと涙が落ちる。しかし、やがて彼は微笑む。人を愛したことの喜び。この少年はこれからも人を愛し、時に傷つき、人があるべき人生を送っていくのだろう。映画館が明るくなるまで、いや家路に着いてからも少年エリオのこれからの人生に想いを馳せた。こんなこと、久しぶりだ。

本作は誰もが持つ、永遠に続くかのような青春時代の刹那を撮らえる事に成功している。止まってしまうのではと思えるほどゆったりと流れる、この世ならざるイタリアの夏の眩さ。その陽光の下に現れたアーミー・ハマーの比類ない美しさが本作のスタイルを決定付けている。日に焼けた肌の色、黄金色の髪、長い手足、深く響く声。まるでギリシャ彫刻のようだ。ハマーにはこれまで端正過ぎるために逆に無個性な印象を持っていたが、本作では豊富なニュアンスを含んだ表情が多くの行間を生んでいる。17歳の無邪気な恋心を受けとめるには歳を取り過ぎた。時は1983年、ハマー演じるオリヴァーがアメリカから来た事を思えば、その後ろめたい態度がクローゼットゲイとして苦しんできた事によるものだと想像がつく。エリオを傷つけまいとしてきた彼の車窓で見せる別れの表情が忘れられない。

オリヴァーはエリオに「君の名前で僕を呼んで」と囁く。運命の恋の相手とは、時に自分と似た、まるで片割れのような錯覚を覚えることがある。同一視する事で満たされる心と身体。終幕、電話越しで囁く“エリオ”という名前の持つ語感の官能に身悶えした。エリオ、エリオ、エリオ…。

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君の名前で僕を呼んでのポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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