映画『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』レビュー

熱きブン屋魂

何が何でも撮りたいモノがある時のスピルバーグ映画は熱い。本作は『レディ・プレーヤー1』のポスプロ中に脚本と出会い、何とそこから7か月で公開に漕ぎつけた。その原動力はもちろん反トランプであり、何より歴史改竄主義はじめポストトゥルース時代へのカウンターだ。

巻頭の機密文書を持ち出す緊迫、銃弾の如くタイプ音が飛び交う中、オフィスを縦横無尽に駆け抜けるヤヌス・カミンスキーのカメラワークと相も変わらずスピルバーグのサスペンス・アクションの達人としての才気がみなぎる。そして近年、より顕著になった役者の芝居を本位とした演出はTVドラマ俳優オールスターズによって熱量を帯び、魅せるのだ。リズ・ハンナとジョシュ・シンガーによる明快な脚本によって気負いなく政府と国民、政府と報道の在り方を説き、僕らに改めて民主主義の正しい道理を知らしめてくれるのである。
そしてこのオールドスタイルのジャーナリズム映画にはもう1つ現代的な視座がある。報道の自由を守る大英断を下したのは当時のワシントン・ポスト紙社長キャサリン・グラハムだった。女が先頭に立てない時代、誰からも相手にされてこなかった彼女が立ち上がる瞬間をメリル・ストリープは驚くほどさり気なく、感動的に演じており、近年の彼女のベストワークと言っていいだろう。

本作のたぎる“ブン屋魂”の根源は1976年のアラン・J・パクラ監督作『大統領の陰謀』遡る。『ペンタゴン・ペーパーズ』のラストショットはかの名作の冒頭ショットへ“続く”と暗示して終わる。献辞を捧げられたノラ・エフロン監督はウォーターゲート事件を暴いたワシントンポスト誌の記者カール・バーンスタインの妻であり、『大統領の陰謀』の映画化へ尽力した作家でもあった。決して大上段にはならないスピルバーグのネオ・ウーマンリヴへの呼応も見逃してはならない。

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ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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