映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』レビュー

Darkest Hour

堅苦しい実録映画を想像すると思いのほかライトな作りに驚かされるハズだ。首相就任からダンケルク撤退戦までのわずか1か月に的を絞り込んだ脚本を、かつてジェーン・オースティンを読んだ事もなかったと公言しながら『プライドと偏見』で華々しくデビューしたジョー・ライト監督が撮り、そのある種の“軽さ”を持ってエンターテイメント性の高いポリティカルドラマに仕上げている。『アンナ・カレーニナ』で自家薬籠中化した様式美を捨て去りながらも、ブリュノ・デルボネルの陰影に富んだ素晴らしい撮影によって映画に“重心”を得る事に成功しているのだ。

そしてこの映画の最大の推力であるゲイリー・オールドマンの徹底した性格演技によって、ウィンストン・チャーチルという人物像が浮かび上がる。始終葉巻をくわえ、朝からスコッチが手放せない破天荒さ。そして時に危険すぎるまでの激し易さ(映画も好戦的とも言えるその姿勢には疑問を抱いている)。歩き方(ダイエットをかねて早歩きだったという)や喋り方、さらには肥満体形特有の呼吸まで再現する事はオールドマンにとって造作もない事だったろう。元来、“怪優”の部類に入る人であり、賞レースには縁遠かったが、その演技力で歴史上の偉人を2時間演り切ればオスカーなんて当然の結果である。

ではなぜ今、チャーチルなのか?
それは奇しくも同時期に公開された姉妹編とも言えるクリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』を見る事でより明らかとなる。両作とも、クライマックスはチャーチルの同じ演説が引用される。ナチスとの徹底抗戦を宣言したそれは我々、民主主義が戦うべき差別や不寛容、ファシズムの姿を明らかにしており、同時にそれは今、僕らが対峙しているものが何ら変わり事を明らかとしている。原題“Darkest Hour”とはまさに現在(いま)を指しているのだ。

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ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男のポスター
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長内那由多のプロフィール画像

長内那由多

タマネギ畑が広がる北海道のド田舎で多感な思春期を過ごす。中学2年生で「恋人までのディスタンス」のジュリー・デルピーに恋をする⇒メインの更新は本館ブログへ移行しました。こちらでは劇場公開作についてたまにアップします。

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